2013年10月28日

PARセンサー内蔵のUV/IRカットフィルターの劣化要因と陰陽

PARセンサー内蔵のUV/IRカットフィルターの劣化要因と陰陽

Siフォトダイオードを使った光合成有効放射センサーでは、Siの感度波長域が200〜1100nm在るために、PARの定義である400-700nmのみに感度を持たせる際、UVとIRをカットするフィルターを用います。

そしてセンサーとして見たとき、経年劣化によってその出力が徐々に減少していき、光に対する直線性は保てるものの、個別に決定された検量線、校正係数が変化してしまうという現象が生じます。

その主な要因は具体的には、UV/IRカットオフフィルターの金属蒸着膜の劣化であり、劣化の要因は水蒸気、水であると。金属の酸化なもんですから現象はとても単純です。

では、フィルターの劣化は具体的にはどんな具合なのかというと、そんなのを調べた論文なんて見あたりません。

弊社には幸い(?)にもそういう壊れた色んな測器がユーザーから送りつけられてきます。この場合、所詮ジャンクなわけで、分解するのに抵抗は全くなく、平気な気分でいろいろな症状を確認できるのですよ。

多くの場合、弊社で販売した測器ではないことが多く、ユーザーの意図としては、「おめえんとこ国産でいろいろ作っているわけだから、こういうひどい壊れかたをするブツは作るんじゃねーよ。だから、これ見て学べ。」という、そういう優しいメッセージではないのかなと想像してます。だって、メッセージも連絡もメモすらないわけで。

では典型的なUV/IRフィルターの劣化を確認してみましょう。分光器にかけると、こんな感じの結果を得られます。
UVIRFIL.gif
一目瞭然ですね。透過スペクトルの形はセンサーとしてオーバーオールの特性ではない事に注意。UV/IRフィルター単独の透過スペクトル。この透過した光がSIに到達する構造です。

PARの仕様書に書かれている呪文の1つに、「年間ドリフトが×.××%程度生じるので、年一回程度で送り返してね。再校正して送り返すってサービスやってるからね。そんでもって、そんときの料金はこのくらいなんで、よろしくね。」というのがあります。

ここで言いたいことはもう解りますね。これだけ分光感度特性が変化した物を再校正って、幸せになれるのか?

まともな判断として、これはゴミです。ついでに、ゴミの判定基準は新品時の出力の-10%を越えた物は全部潔く捨ててしまってください。たとえそれを再校正して使っても、あなたの論文に使える確度を持つデータは決して得られません。だって、手元にあるそれは、PARの定義からずれてしまった分光感度なのですから。特に赤の領域が過小評価されて、相対的に青が強すぎる感度になっています。

LED光源なんかを使う植物工場の場合はもっと悲惨で、赤はメインの照射光ですから、LEDが劣化したのか、センサーが劣化したのかわけ解らなくなってしまいます。

追記すると、劣化の方向がプラス側だとすれば、それは他の原因が考えられます。拡散板の劣化の可能性もありますが、電気的な故障の可能性も含んでいます。捨てる前に出来る範囲で点検するのは良いと思います。

「劣化を防御する方法は無いのか?」という事は当然考えますよね。でも残念ながら、ありません。劣化を防ぐには水蒸気、水をシャットアウトする構造でなくてはならず、それはそういう設計をしてから製造するしかなく、ユーザーでは手の打ちようがないのです。ただし、お金をかければ別ですよ。ガラスドーム日射計の筐体に入れてしまう強者もごく少数いらっしゃいますし、それはとても早い正解だと思います。

「フォトダイオード日射計」2013年10月07日で掲載した内容の通り、アクリル拡散板を採用した時点で、設計者は吸湿性(=透湿性)を認識した上で採用しているわけで、内部に乾燥剤を入れたりしても対策にはならず、結局のところ推定寿命長くて2年、修理不可能という設計、仕様で製造しているという話になります。

世界を見れば湿度の低い場所が在ることにはありますから、そういうところで使う時には、寿命は延びるでしょうけど、日本を含むアジア、熱帯で使う場合は寿命が設計より縮むわけです。たとえ室内で保管していてもです。

じゃあ、ウチではこの問題にどう対処するのか?というのが本題です。以下の水を入れない対策2つ、それでも入る水の対策1つ、そして最後の手段1つという計4種類の対策。

1.水蒸気と水を中に入れない手段として、PTFE製の拡散板を採用しています。PTFEにした理由は耐候性や紫外線の透過性能なども在るのですが、一番の理由は、エンジニアリングプラスチックの中で、吸水性が0というのは、PTFEとPFA程度でしょう。後者は透明度が高くて、光の拡散が少ないのでセンサー目的には使えず、そうするとPTFEのみが残ります。

2.Oリングからごく微量透過する大気中の水蒸気の対策として、ガス透過係数の低いU種NBR(普通よりちょいと硬いやつ。普通は1種)を選定。バキュームグリスを忘れずに。U種の水透過率は「低い」と言えるまでで、0ではない。

3.ということは、それでもやっぱり入って来る水、しつこいですね。なにせ大気中には常時水蒸気が存在し、雨も降る、だから、乾燥剤としてモレキュラーシーブを封入します。粒径1mm程度の1粒あたりでMIJ-14のデッドボリュームに30℃、60%RHの水蒸気が入った場合、DP-50℃まで乾燥出来る計算ですすが、これを約100粒を内蔵。

4.理想的には半年に1回、甘くて1年に一回は乾燥剤を交換していただきたいのですが、そうすれば、水がないからフィルターの劣化も起こらない。しかし、ご存じのように、そういうメンテは忘れてしまう事が多々ありますよね。例えば5年ノーメンテだと、いくらなんでも劣化しないと言い切れないわけですが、ここで、最後の手段、もし、フィルターが劣化した場合、そこだけ交換可能です。

DSC00385.gif
電気関係とフィルターを除く主要構成部品の写真。旋盤加工品が多いです。
すみません。フィルターは撮影目的程度では封を切りたくないんです。組み立て直前に封を切ります。

「修理できるできるって言うけど、一体なんぼかかりまんねん?」と思いますよねえ。
「そりゃあ懐次第でっせ。」とは言いませんからご安心を。ウチは時価のすし屋じゃないです。こちらに予想される主な修理内容と校正費用を掲載しています。http://www.environment.co.jp/study/MIJ-14Repair.pdf
腰上と腰下で校正の必要の有無の分岐はどうしても生じます。

話は飛びますが、PTFEを採用した段階で、あたりまえですがPTFEのデメリットともつきあわねばなりません。プラスチックのくせに射出成型ができない。これは切削で対応出来るのですが、やっぱり高めになる。もう一つがやっかいで、接着剤でくっつかないという嫌な性質。くっつくと謳う特殊な接着剤も在るには在るけど、耐候性、寿命が短くて使えない。なのでOリングで締結するしかないのです。これは明確にコストアップを招くデメリットなのですが、ここに、「修理できる」という概念を持ち込むとメリットになるとも言えます。

フォトダイオードを使った光センサーの類は、えいやっとエポキシ系接着剤で筐体内部を埋めてしまい、拡散板も接着剤でくっつけてしまうという構造が多くの場合採用されているのはご存じの通りです。だから修理できない使い捨て仕様になってしまう。

一方で、弊社のセンサーはそういう構造とは無縁なので、修理が出来る。しかしながら自動的に製造コストはざっと5倍以上はかかってしまいます。だから本当は販売価格を今の1.5倍にはしたいけど、でもねえ、多くに使っていただかないと意味がない。

値引きが難しいと言うデメリットは、どうか、理解してください。販売価格を高めにして、値引きして販売する事よりも、販売価格そのものを下げる事の方が仕事なんじゃないかと思うからです。こういう数が必要な類の製品は。

メリットはデメリットと対である。陰と陽ですねえ。

日本環境計測国産部門担当HK
http://www.environment.co.jp/
posted by EMJ-TM at 17:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記