2013年10月04日

熱電堆式日射計とフォトダイオード日射計

熱電堆式日射計とフォトダイオード日射計

なんと5年。

振り返ると2008年からお日様と格闘している事に最近気が付いてしまったのだけど、熱電堆式の老舗Kipp&Zonenの歴史が150年なわけで、それは大した時間じゃないのかなあとも考えられ、頭の中で仕事の遅さを良いように解釈している次第。

ただし前提として、日本の隅っこに位置する完全に零細な弊社が開発なんていう、つまり自由な時間とお金が出て行く、普通は大手しかありえないような贅沢なことができるのか?その理由は、弊社からなにかしら購入してくださるお客様から頂く利益が原動力であることは確実な事実です。感謝のみしかありませんし、実際に「そろそろ新しい何か、出てんじゃねーの?まだか?」という声は頂くわけです。

お買い上げいただいたときには声だったり文章だったりはしはしますけど、「ありがとうございました。」と言いますが、実のところ、ウチの場合は、その後にもっと重要な言葉が隠されており、

「ありがとうございました。今回の利益は○○○の研究開発費用に当てさせていただきます。」

もっとそのときの気持ちを具体的に表現すると

「ありがとうございました。今回の利益はうちで使う環境試験器の購入費用に当てさせていただきます。どうしても今回の試作品のテストにはこれがないと性能試験に支障が出てしまうんです。お買い上げいただきました品の使い道や研究テーマとはまったく関係がなくて申しわけないのですけども、完成の暁にはきっと喜んでいただけると、仮にそれがお客様自身じゃなくても、知らないどこかの研究者にはそう思っていただけると、そう思う次第です。」

となります。「仮にそれが・・」この辺が心苦しいから、全部は言えないってことは多々あります。

だから、とっても自然な流れで、開発の範囲は決まってきます。お客様が喜べるものになるのか?できれば対象が広いととても良いんじゃないの?という尺度だけです。ただ問題が・・・、

スーパーニッチなのにスーパーリッチじゃあ決してない、そういうマーケットなので、「対象が広い」の実現は無理だと思います。そうすると、少数の「ワカル」人に対してだけの満足度を上げる、という方向になり、これは零細でもやれることは多いですし、そのへんだけが面白い、楽しい仕事なんです。

そういうのの一部として、これまでPARセンサー(光合成有効放射センサー)に没頭してきたわけですが、特にJAXAのGCOMプロジェクトはそれを加速させ、その再開発、再改良に拍車がかかり、評価する側、確度を追求する人々と関わりができて、楽しかったのですけども、2013年3月に受動型温度補正回路の開発が終わってからは、まあ、だらだらとしたトピックスにならない程度の改善程度しかすることが無くなり、そろそろ次は日射を計ってみようじゃないか、という気分になったのもこの頃です。

実はPARの片手間で既に2012年4月から着手はしていたので、仕上げ、味付けという作業を繰り返し、その味付けのさじ加減は思ったより難しかったのは確か。

歴史を振り返ること40年程度、PARも1960〜1970年初頭には、熱電堆式日射計をベースに、400-700nm範囲のみ光を通すワイドなバンドパスフィルターをその上に載せてPARセンサーとするという手法が開発され、それを使った観測や評価はレポートが残っています。熱量ベースPARなんて呼ばれています。ただし、波長の最適化を行う前の段階、基礎と呼べる部分が、今の尺度から見るとめちゃくちゃで、入射角特性、温度特性、応答速度、長期ドリフトなど、複合的に数多くの誤差要因が含まれたデータであった模様で、観測できた、と言えるレベルではなかったようです。

何故そんなみっともない記録が残ってしまったのかというと、その当時の国産日射計のレベルが低かった、つまりカスタムベースのスペックが低ければ、なにをしても結果の向上はあり得ないという、あり地獄にはまっていたんですねえ。一方で国策に近い理由で巨大な予算が動いていたので、海外製品をカスタムベースにするわけにも行かず、と担当者はきっと胃が痛かったはずです。

この時代から見るとサーモパイル日射計はここ50年で大きく改良され、現在は平均的にとってもよろしい性能になっていると言えます。特に近年の日本の事情として、エネルギー問題の対策としてソーラー発電(PV)というマーケットを巨大化させたことを背景に、それと同時に日射計の需要も増加して、という時代が現代日本と言えます。もちろん、日射計が民間でたくさん売れるなんてのは異常な事なので、一部の人から意図的に作られたブームやマーケットは直ぐに終わる運命で、どうでも良いとは思います。PVがって意味じゃなくて、それに乗っかるマーケットがって意味です。

さて、今回は、「Siフォトダイオードをベースにした日射計の開発、基本特性の向上、受光感度の波長依存性の最適化とその効果の検証」というPARよりは、多少メジャーなテーマを設定でき、それはつまり簡単に言うと、「Si日射計=簡易日射計と言い切って良いのか?」という表現でいいかと思います。若干の特許からみの作業内容なので、詳細を書けない事もありますが書けるとこまで。

日射計の定義としてISO9060はよく見る規格表です。
ISO9060.png

他のセンサーと印象が異なり、さすが国際規格だなあと思える項目が多いですが、よく見るとこの規格は「熱電堆式であること」というのが大前提になってますね。つまり熱電堆式しか知らなかった、もしくはそれしか無かったという背景が読みとれます。だからこそ、その弱点を良く知っている人々がこの規格を作り、弱点に対しての規格を作ろうという方向性を感じます。良心的ですね。

黄色に示した項目が日射計特有のものですが、ぱっと見てわかるとおり、Secondary standard 以外の規格なんて、誤差がつもると訳が分からない程度にひどく、こんな性能のものは測定器として売って良いのか?と思える程度に甘すぎます。そのくらい、熱電堆式で精度良く作るのは難しかったと言うことだと解釈できます。

また、この表を作った人は熱電堆式は絶対測器ではなく、相対測器である。という事を良く理解しているなあとも思います。どこの天才でしょう。

絶対測器を作るのはとってもめんどくさく、また、その運用管理は恐ろしく手間を要すのが前提になってしまい、日射に関して言えば銀盤式日射計やオングストローム日射計がそれに該当し、それらは僕も見たことさえない物体なほどレアなものですし、日々の通常業務で使えるわけもない原理です。イロイロと問題はあるけれど、現地運転がそれに比較すれば楽、管理も楽、おまけに安くできる、と、そりゃあ相対測器とは言え、みんなが使えるのはとても良いことなのです。

こういうところが、ざっとしてはいますけど、日射計の背景だと思います。で、ようやくフォトダイオードのお話に入ります。

黄色の項目は、実はフォトダイオードはなんにもしなくてもクリアしている、もしくはよほどヘタこかなければ、越えているという事が言えます。つまり、物性としてそういうものであり、改善するための努力は不要と言い切れます。じゃあ残る、年間ドリフト、波長応答特性に注力すれば良いと言えますね。具体的に言うと、応答速度はマイクロ秒、ゼロオフセットAは皆無、ゼロオフセットBも皆無、非直線性も0.0X%未満、方位角特性については、光学設計次第ですが、弊社の場合は問題なし、温度特性も設計者次第ですが±0.01%以内、傾斜角特性は問題ない、という具合です。

年間ドリフトの項目は、既に世に出回っているフォトダイオード型日射計のごく一般的な悪評として、全然ダメ、耐久性が全くない、そういう声は良く聞きますし、僕もそう思っていました。ところが前記したPARの開発で良く解った事ですが、フォトダイオードそのものは全く劣化しない、劣化するのは拡散板とフィルターであると言い切れます。ただし、プラスチックパッケージの安価なフォトダイオードが用いられている場合には、当てはまりません。CANとガラスウインドウでハーメチックに密閉されたフォトダイオードの場合にのみそう言えます。何故かというと、プラスチックパッケージの透明樹脂が熱と紫外線で変色してしまうからです。近年の自動車のヘッドライトのカバーが変色するのはよく見かけますね。これと同じ。

フィルターの劣化については、PAR独特の構造によるもので、日射計用途のものは通常はフィルターが入らないので劣化しようが無い。つまり、拡散板の劣化のみが問題であったと言えます。これはアクリルの紫外線劣化、もしくは吸水性によるもので、前者は単独で、後者は内部に水が入って悪さをしてしまうという事になります。アクリルを使ったセンサーの場合、それ以外の箇所での防水を行っても無駄とは言いませんが、延命程度の意味しかないです。

残る波長応答特性については、Siフォトダイオードは300〜1100nmがその範囲であり、残念ながらフォトダイオードの物性として、クリアできない項目になります。

この辺で問題定義を終えましたので、次回はその対策についてのお話にします。

日本環境計測国産部門担当HK
http://www.environment.co.jp/

posted by EMJ-TM at 14:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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